【2024年版】7つの業界別にBtoCのEC化率を徹底解説

「ECのマーケットはどうなっているのか?」
「EC化率ってどういう意味だろう?」

ECの市場を知るには、自社と関係のある業界のEC化率を押さえておく必要があります。そもそもEC化率とは、カンタンに説明すると、その業界(分野)の全商取引総額のうち、どれくらいがオンライン(EC)で取引されているかを表すものです。例えば、2023年度の日本の物販系分野におけるBtoCのEC化率は9.38%です。この数字は下記の計算になります。

BtoCのEC市場規模 14兆6,760億円 / BtoCの市場規模 156兆円 = 9.38%

日本国内のBtoC市場はAmazonや楽天がこれだけ身近になり、その他のECサイトも盛んに利用されるようになったにも関わらず、2023年度の物販のEC化率はたった9.38%しかありません。すでに中国のBtoCのEC化率は48%に上り、中国に比べると圧倒的に遅れています。

本日は、インターファクトリーでシニアアドバイザーを担当している筆者が、日本国内のBtoCのEC化率を各業界毎に詳しく解説してまいります。

※本日解説するデータ及び図は、下記の経済産業省の資料から引用しました。

引用:「EC市場規模」「EC化率」は経済産業省令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2024年9月発表)より引用、「全商取引の市場規模」は筆者が算出

日本国内のBtoCのEC化率はたった9.38%!

業界別のEC化率を解説する前に、日本国内の物販系分野のEC化率の推移について解説してまいります。まずは下記の図をご覧ください。

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移

物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移(〜2023)

このグラフを見る限り、EC化率は毎年右肩上がりですが、諸外国と比べると問題点は2つあります。

① 先進国にも関わらずEC化率が諸外国に比べて低い
② EC化率の伸び率が緩やか。中国や韓国、米国は二桁成長を遂げている

ECの市場規模という点では、日本は世界シェア4位ですが、EC化率の伸び率が低くいため、ECの市場規模でも今後ランキングを下げることになるでしょう。

◆2023年の世界のEC市場規模ランキング(グラフは国別EC市場シェア)

1位 中国
2位 アメリカ
3位 イギリス
4位 日本
5位 韓国

2023年国別EC市場シェア

日本のBtoCのEC化率がなかなか伸びない理由にはいくつかありますが、筆者がは下記のように推察します。

◆日本でEC化率が伸びない理由

① 日本企業の多くがECやオンラインに対して消極的
② EC市場規模の大きい分野のEC化が遅れている
③ WEB施策に長けた人材の不足

特に日本の企業の経営陣は、オンラインに対して消極的な考えが多く、ECやオンラインの促進は企業の課題と捉えながらも、ECへの進出が進んでいないのが現状です。また、いざECやオンラインに進出しても、WEBマーケティングのノウハウを持った人材が不足しており、ECサイトを作っても集客に苦戦し、売上を伸ばすことができません。

それでは、次に業界毎のEC化率を解説してまいります。

国内業界別の物販のEC化率比較(BtoC)

国内業界別の物販のEC市場比較(EC化率順)

◆国内でEC化率が高い業界ランキング(2023年)

1位:書籍、映像・音楽ソフト 53.45%
2位:生活家電・AV機器・PC・周辺機器等 42.88%
3位:生活雑貨、家具、インテリア 31.54
4位:衣類、服飾雑貨等 22.88%
5位:化粧品、医薬品 8.57%
6位:食品、飲料、酒類 4.29%
7位:自動車、自動二輪車、パーツ等 3.64%

それでは、EC化率が高い業界ごとに解説します。

1位:書籍、映像・音楽ソフトのEC化率を解説!

この分野では、デジタルコンテンツ以外の物販のEC化率について解説します。この分野のEC化率が急激に高まる理由は、コンテンツのヒットによるものです。

例えば昨今の鬼滅の刃のヒットであったり、また過去には、歌手の安室奈美恵さんが引退した時には全国で急激にECの利用者が増えました。

このように書籍や映像・音楽ソフトという分野はコンテンツのヒットに非常に影響される分野なのです。

また、この分野の商品はどこで購入しても品質に差がないため、ECサイトで購入するハードルが非常に低い特徴があります。また、ECサイトでは豊富な在庫から欲しい商品をすぐに検索でき、各商品のレビューや試聴・試し読みといったサービスも提供されていることも、EC利用が進んでいる理由のひとつです。

2位:生活家電・AV機器・PC・周辺機器等のEC化率を解説!

家電やPCといった分野も、ECと非常に相性の良い分野です。

数万円の高額商品のジャンルではありますが、家電製品等は書籍や映像・音楽ソフト同様に「型番が同じであれば、どこで買っても品質が変わらない」という特徴があります。

家電製品の中には、洗濯機やエアコンなどの大型家電、あるいはオーディオ機器は大きくて、重いため、店舗で買っても、ECで買っても配達する必要があり、家に届く時間に変わりがありません。

また、ECサイトの特徴の一つに、人件費や店舗運営費がかからないため、店舗の商品よりも安く買える特徴がありますし、インターネットで比較検索すると、同じ商品でも日本で一番安いお店を選んで買うことができます。

このような家電やオーディオ製品の特徴は、ECと極めて相性が良く、EC化率が42.88%と高い業界なのです。

EC化率が高いことで、家電業界を悩ます問題も発生しています。それがショールーミング行為です。ショールーミングとは、ユーザーが店舗に行き、商品を手に取り店員から説明を聞いて納得した商品を、店舗では買わずに価格の安いAmazonや楽天、あるいは価格.comなどで、最も安いECサイトで購入する行為です。

しかし、ショールーミングを逆手にとって、急成長を遂げているのがヨドバシカメラです。ヨドバシカメラは「電子棚札」といって、店舗の商品値札にバーコード記載しておき、それを読み取るとyodobashi.comという自社ECサイトの商品ページに行ける仕組みを作っています。そして、商品ページでは競合メーカーの商品も調べることができます。

つまり店舗で確認次第、すぐに自社サイトでの購入を促すのです。これによりヨドバシカメラは他で買い物されるのを防いでおり、顧客を自社で囲い込む作戦が功を奏しています。

電子棚札の仕組みは、ビックカメラやヤマダ電機など、他の大手家電量販店でも取り入れられています。

3位:雑貨、家具、インテリアのEC化率を解説!

家具やインテリアは長く使う製品です。女性は特にインテリアのこだわりが強いこともあり、実際に店舗で確認したいというニーズが強いため、そこまでECと相性が良い業界というわけではありません。

しかし、コロナ禍に入ると、巣ごもり需要などで家具を求める人が増えて、全体の市場規模とともにEC化率は堅調に伸び、2023年度は31.54%に達しました。

EC化率が伸びた背景には、ニトリや無印良品などの大手ECの売上が伸びていることや、デザイン性の高い家具・インテリアを扱うEC専門の企業などが誕生していることが背景にあります。

また、ECサイトにも工夫があり、細かい解説や拡大写真を掲載し、実際に買ったユーザーの口コミを集め、ECサイトで家具を買うことに抵抗を無くす努力を行っており、こういった取り組みがECで家具を買うことに抵抗を無くしているのです。

4位:衣類、服飾雑貨等

アパレルはECとは相性が悪い分野の一つです。衣服や靴は、実際に試着してサイズだけでなく自分に似合うかどうかを確認したいというニーズが強いため、実際に手に取って確認する必要がある分野は、ECと相性が悪いのです。

従ってEC化率も伸びてはいますが、22.88%と、市場規模の割にはEC化率が低いのが特徴です。

しかし、バーチャル試着と呼ばれるソリューションの誕生や、ECで注文した商品を店舗で試着して購入を判断できるサービスなど、試着問題に対する各社の取り組みが進み、ECで服を買うことの抵抗感がない人が増えております。また、NikeのECサイトでは、返品やサイズ・カラーの変更を無料で行うことができるなど、各社とも様々なサービスでユーザー利便性を高めるための企業努力を重ねております。

アパレルECの勝敗の分け目は、店舗とECのデータ統合によるOMOの実現にあります。データ統合の敷居は高く、大きな費用と労力がかかりますが、データ統合に成功した企業は売上を一気に増やしており、この業界で勝敗を分ける大きなポイントの一つになります。

5位:化粧品、医薬品のEC化率を解説!

この分野は、市場規模が巨大にも関わらず、EC化率が低く2023年度は8.57%しかなく、あとに紹介する食品の分野とともに、日本のEC化率の足を引っ張っている状況になっています。

この業界のEC化率が低い原因は、ユーザーの多くがECよりも実店舗で購入するニーズがいまだ強く、マツモトキヨシなどのドラッグストアは全国の隅々までに店舗があり普段の生活圏内で安く購入できるため、わざわざECサイトで送料や配送時間をかけて商品の購入を行うことをしないからです。

しかし、この業界においても2020年にコロナ禍の影響により、化粧品や医薬品をネットで求める動きは急激に伸びました。

この分野でEC化率を高めるには、Amazon Primeのようなドラッグストアを上回る利便性を追及するサービスが生まれる必要があります。そのためには配送業者との連携や、あるいは自社独自の配送ネットワークの構築する必要があり、ハードルは低くありません。

6位:食品、飲料、酒類のEC化率を解説!

食品という分野の中でも、特にECと相性が悪いのは生鮮食品です。生鮮食品の「鮮度を手に取って確かめたいニーズ」と「鮮度を保つ必要がある」という2つの理由が、EC化率をたった4.29という低水準に留めているのです。この傾向は日本に限ったことではなく、世界各国で食品分野のEC化率は高くありません。

また、日本中でユーザーの生活圏内にスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどの店舗があるため、この利便性さこそが業界のEC化率が低い原因の一つとなっています。

この分野でEC化率を高めるためには、店舗を上回る利便性の高いサービスが必要となりますが、日本の配送サービスは、人手不足が社会的問題になっているほどで、この点の解決はカンタンではありません。

昨今は、出前館やUber Eatsといったデリバリーサービスの配送網を活用した食品や日用品の即配サービスが少しずつ増えてきましたが、サービスエリアは都内など限定的で、普及はまだまだこれからといった様子です。

食品・飲料・酒類などの日用品でEC化率を高めることができれば、他の分野も追随してEC化率が高くなるはずであり、日本国内全体のEC化率の底上げのためにも、この分野での新しいソリューションやサービスの誕生が待たれます。

7位:自動車、自動二輪車、パーツ等のEC化率を解説!

このジャンルは「どんなECサイトがあるのか?」ピンと来る人が少ないと思いますが、メインは、パーツ類で、タイヤのエアロパーツになります。カーポートマルゼンなど有名なECサイトがあります。

このジャンルのEC化率はたった3.64%しかありません。その理由は、車関連のパーツやタイヤなどが欲しいユーザーは、車でオートバックスやイエローハット等のカー用品店に足を運ぶため、ECで買うユーザーは限られます。カー用品店は日本中に支店があり、車を所有しているユーザーにとっては不便を感じないためEC化率が低いのです。

それでも、対前年比でEC化率が大きく伸びている理由は、中古車販売業者が二輪・四輪のECでの販売に力を入れており、EC取引が今後も増えて行くことが予想されます。

EC化率のまとめ

この記事では、EC化率を高めることが前提のような書き方になってしまいましたが、そのような意図はありません。例えば、商品力やブランド力が強く、店舗まで来店しないと手に入らない商品を持つ企業は、それで成り立っており、そのまま商品力やブランドを磨き続けていけば良いのです。

しかし、一般論として、多くの企業が「商品力」や「ブランド力」があるわけではなく、企業として生き残っていくためには、商圏を広げ利便性の高いECの利用を促進していかなくてはいけません。

特に、食品や日用品の分野においては、ECの利用が進めば、日本全体でEC化率を高めるキッカケとなると筆者は考えております。

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