CCM(カスタマーコミュニケーションマネジメント)の解説

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)とは、企業が顧客とのコミュニケーションを管理・最適化するための戦略やツールのことです。CCMは、顧客とのやり取りを一元管理し、カスタマイズされたメッセージングやマーケティング活動を通じて、顧客体験を提供するものです。

カスタマーコミュニケーションマネジメントが重要な理由は、商品においてのコモディティ化と価格競争が進んだ現状が関係しています。クノロジーやサプライチェーンの進化により、どのメーカーの商品もある程度の質が担保されるようになった反面、どのメーカーの商品を買ってもユーザーにとっては違いが分かりにくくなりました

そのため、企業が打ち出す「メッセージ」や「ブランド」が商品戦略の上で非常に重要になっております。そこで、カスタマーコミュニケーションマネジメントを徹底して、ユーザーが商品を選ぶときに第一想起されるようなブランドを作る必要があるのです。

この記事では、forUSRES株式会社でマーケティングを担当している筆者が、カスタマーコミュニケーションについて詳しく解説します。

カスタマーコミュニケーションマネジメントの重要性とは、「第一想起」されるようになること

現代では、多くの商品やサービスがコモディティ化し、価格競争が激化しています。このような状況では、単に優れた製品やサービスを提供するだけでは競合他社との差別化が難しくなっています

例えば「テレビ」ですが、技術進歩が進み、どのメーカーを見ても低価格でクオリティが高い商品が並んでいます。機能や価格で差別化が難しい状況において、家電メーカーにとっては自社のテレビが消費者に「第一想起」されることが非常に重要です。

「機能や画質が変わらないなら、安い外国製でも良い」と思われてしまわないよう、ポジティブなブランドイメージの醸成が必要になります。

そのためには、ブランドの認知度を高め、消費者の記憶に強く残るような一貫したメッセージを発信することが不可欠です。特に「家庭用テレビ」のように多くの選択肢が存在する市場では、顧客が商品を選ぶ際に最初に思い浮かべるブランドであることが競争優位を確保するための重要な要素となります。

企業においては顧客との関係性を深め、一貫したコミュニケーションを通じてブランドの価値を高めることが求められています。

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)は、こうした差別化を図るための重要な施策の一つです。カスタマーコミュニケーションマネジメントを通じて顧客体験を向上させることで、他社と一線を画す強力なブランドを築くことが可能になります。

では次に、カスタマーコミュニケーションの入り口となる各チャネルについて解説します。

カスタマーコミュニケーションとは、全ての顧客接点で生じるコミュニケーション

では、具体的にカスタマーコミュニケーションにはどのようなものがあるのでしょうか。以下に、各チャネルのインタラクティブ性(双方向性)と、メリット・デメリットをまとめてみました。

◆カスタマーコミュニケーションの各チャネル一覧

※マス広告のチャネルは含まず

チャネル インタラクティブ性 メリット デメリット
①ホームページ(LPや広告、フォームを含む) × ・24時間アクセス可能であり、いつでも顧客が情報を得られる
・一度作成すれば、運営コストが低い
・検索エンジンからの集客が期待できる
・顧客からのフィードバックが遅れる可能性があり、双方向のコミュニケーションが難しい
・内容の更新に手間がかかる
・直感的でないデザインは離脱を招く
②チャット ・リアルタイムで対応でき、顧客の疑問をその場で解決できる
・AIチャットボットを使えば24時間対応も可能
・個別対応がしやすい
・リソースが必要であり、特に有人対応の場合は人員確保が課題
・AIボットでは複雑な質問に対応できない可能性がある
・プライバシーへの配慮が必要
③メール × ・受信者が自分のペースで対応できる
・記録が残るため、見返すことが可能
・大量の顧客に一斉配信ができる
・レスポンスが遅くなる可能性があり、緊急の対応には不向き
・スパムフィルタにかかると届かない可能性がある
・大量のメールに埋もれるリスクがある
④SNS ・広範囲に情報を伝達でき、ブランドの認知度を向上させることができる
・ユーザーと双方向のコミュニケーションが可能
・バイラル効果が期待できる
・公開されるため、企業としての対応が注目される
・ネガティブなコメントが広がるリスクがある
・リソースが限られると効果的な運用が難しい
⑤LINE等のメッセージングアプリ ・顧客が使い慣れたツールで対応でき、親近感を持たせることができる
・リアルタイムでのコミュニケーションが可能
・個別に対応しやすい
・プライベート感が強いため、対応の際には特別な配慮が必要
・誤解を招くリスクが高く、文面のニュアンスに注意が必要
・即時対応が求められる
⑥店舗 ・顧客との直接的な対話が可能で、信頼関係を築きやすい
・製品を実際に見たり触れたりできる
・即時購入につながりやすい
・地理的制約があり、顧客の来店を必要とする
・運営コストが高く、賃料や人件費がかかる
・天候や外部要因により集客が変動する
⑦電話 ・迅速な対応が可能で、複雑な問題や緊急の問い合わせに対応しやすい
・顧客の声のトーンや感情を直接把握できる
・パーソナライズされた対応が可能
・記録が残りにくく、後から確認するのが難しい
・長時間の対応や混雑時にストレスがかかる
・通話料が顧客側にかかる場合がある
⑧カタログ × ・製品情報を詳細に提供でき、視覚的に訴えることができる
・顧客が自由に閲覧できるため、持ち帰りやすい
・一度作成すれば長期間利用可能
・更新が難しく、情報が古くなるリスクがある
・制作コストが高い
・持ち帰り後に読まれない場合もある
⑨チラシ × ・特定のプロモーションやイベントを迅速に伝達でき、即時の反響が期待できる
・デザイン次第で視覚的に訴えることができる
・配布方法が多様
・短期間でしか使用できず、効果が一時的
・じっくり読まれない場合が多い
・受け取られない可能性が高い

このように、カスタマーコミュニケーションとなる多くの顧客接点が存在するのです。では、このような複数の接点でバラバラなコミュニケーションを取ると、どのようになるのでしょうか

筆者が実際に過去の職場で遭遇した、バラバラのカスタマーコミュニケーションについて事例を紹介します。

カスタマーコミュニケーションが「バラバラ」であった体験談

筆者はかつて、大手英会話スクールのマーケティング部に所属しておりました。その英会話スクールは「グローバル」「高級」「ハイクオリティ」といったブランドメッセージを広告やホームページを使って打ち出していたのですが、過去に通っていた生徒向けのメルマガでは、「卒業生は値下げ」「●回以上レッスンを受けるとお得」など、別のコミュニケーションが実施されていました。

このように、ホームページと卒業生向けのメルマガではコミュニケーションがズレており、ユーザーから見るとイメージがバラバラになってしまいました。メルマガ担当としては、メールの反応率を上げるための行動でしたが、一部の最適化ばかりに目が行くと、全体としてブランドメッセージの一貫性が失われ、結果として顧客の信頼を損ねるリスクがあります。

このようなコミュニケーションのズレは、企業全体の印象に悪影響を与える可能性が高く、特にブランド価値を重視する企業にとっては致命的です。

全体のマーケティング戦略を考える際には、各チャネルでのメッセージの統一性を保つことが重要です。個々のチャネルでの最適化ももちろん大切ですが、それが全体のブランドイメージと整合しているかを常に確認する必要があります。

この例から分かるように、カスタマーコミュニケーションがバラバラであると、ユーザーに混乱を招くだけでなく、企業の信頼性やブランドイメージにも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、企業は一貫したメッセージを全チャネルで伝えることを重視しなければなりません。

では、次にCCMを実行するためのツールを紹介します。

カスタマーコミュニケーションマネジメントを実行するには「MAツール」や「CRMツール」を導入する!

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)は、特に競合他社との差別化を図る大手企業には必要な施策であり重要性が高いです。では具体的にどのように実行すべきでしょうか?

それには、以下のようなツールを導入して、少なくともデジタル領域に関してはメッセージを統一する必要があります。

◆カスタマーコミュニケーションマネジメントで導入すべきツール

① MA(マーケティングオートメーション)
② CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)

これらのツールを導入することで、顧客とのあらゆる接点でのコミュニケーションを一元管理し、メッセージの統一を図ることができます。では、各ツールについて詳しく解説します。

① MA(マーケティングオートメーション)

MA(マーケティングオートメーション)は、リードジェネレーション(※1)やリードナーチャリング(※2)のプロセスを自動化し、顧客の行動や興味に基づいてパーソナライズされたメッセージを各デジタルチャネルに配信することが可能です。

パーソナライズの例ですが、ECサイトでMAツールが実装されている場合、初回購入をしたユーザーと、2回以上のリピート購入をしているユーザーには、それぞれメッセージを分けてメルマガや広告を配信することができるのです。

これにより、パーソナライズしつつもブランドの統一性を保ちながら、ユーザーとコミュニケーションを取ることができるようになるのです。

※1 見込み客(リード)を獲得するためのプロセス
※2 獲得した見込み客の関心を深め、購入や契約に導くプロセス

② CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)

CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)は、顧客との全てのやり取りを記録し、各部門でのコミュニケーションを統合します。これにより、営業、カスタマーサポート、マーケティングなどの各部門が同じ顧客データにアクセスし、一貫したメッセージを提供できるようになります。

MAツールはどちらかというと「自動配信」に重きを置いているツールですが、CRMは「記録」に重きを置いたツールと言えます。

CRMを導入することで、顧客ごとの履歴を分析して最適なメッセージを打ち出すことができます。また、CRMを導入すると、デジタル領域だけでなく、店舗や電話などのアナログ領域の接点も記録することができるため、全体としてのカスタマーコミュニケーションを最適化することが可能です。

◆カスタマーコミュニケーションの各ツールの対応図

MAツール CRMツール
ホームページ(LPや広告、フォームを含む)
チャット
メール
ソーシャルメディア
メッセージングアプリ
店舗 ×
電話 ×
カタログ × ×
チラシ × ×

MAツールはデジタルの配信ツールであり、メルマガを配信したり、さまざまなプラットフォームと連携することができますが、店舗や電話などのアナログには対応しておりません。一方CRMツールでは、店舗や電話などのログを残すことで、カスタマーコミュニケーションマネジメントを実施することはできますが、カタログやチラシには対応しておりません。

しかし、MAツールやCRMを導入すると、ほとんどのデジタル媒体でリーチすることができるようになるのです。

カスタマーコミュニケーションマネジメントの実行の5つのステップ

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)を効果的に実行するためには、以下のステップに従うことが重要です。これにより、顧客との一貫したコミュニケーションを確保し、ブランド価値を高めることができます。

ステップ① 現状のコミュニケーションを分析する
ステップ② 一貫したメッセージ戦略の策定
ステップ③ CCMツールの導入と設定
ステップ④ 社内教育とプロセスの整備
ステップ⑤ 効果測定

各ステップについて詳しく解説します。

ステップ① 現状のコミュニケーションを分析する

まずは、現在使用しているすべてのコミュニケーションチャネルを分析し、それぞれのチャネルでどのようなメッセージが発信されているかを確認します。この段階では、メッセージの一貫性が保たれているか、顧客体験にどのような影響を与えているかを評価します。

すでにCRMツールが導入されている場合は、ログを見ればすぐに分析できますが、そうではない場合は、電話や店舗などのコミュニケーションを調査するため、個別に担当社員にヒアリング調査を実施することになります。

ステップ② 一貫したメッセージ戦略の策定

次に、一貫したメッセージ戦略を策定します。いわゆるブランドメッセージのことです。すべてのチャネルで同じブランドメッセージが伝わるように、メッセージのガイドラインを作成し、従業員全員に共有します。また、顧客のセグメントに応じて適切なメッセージを送るために、どのようにカスタマイズするかも考慮します。

大企業においてブランドメッセージを策定する場合は、電通や博報堂といった大手広告代理店のクリエイティブディレクターに依頼してブランドメッセージを作ります。大手企業が標題としているブランドメッセージは、例外なくほぼ全て大手広告代理店の有名なクリエイティブディレクターが制作しており、これこそ大手広告代理店が得意とする領域であるからです。

ステップ③ CCMツールの導入と設定

一貫したメッセージ戦略が整ったら、MAツールやCRMツールの導入を検討します。導入が決まったら、それぞれのツールを企業のニーズに合わせてカスタマイズし、各部門が連携して使用できるように設定します。

特にCRMツールは、データの一元管理や顧客の行動データの統合が重要なポイントとなりますので、1部門だけが使うのではなく、カスタマーコミュニケーションが発生する全ての部門が利用できるようにしなくては、一貫性のあるメッセージを打ち出すことはできません。

ステップ④ 社内教育とプロセスの整備

CCMを実行するためには、社内の全ての関係者がその重要性を理解し、ツールを適切に使用できるようにする必要がありますし、顧客対応や、カタログ・チラシ作成など、ツールが関与しない領域にも一貫性のあるメッセージを打ち出せるようにしなくてはなりません。

また、メッセージに関しては従業員も深く理解している必要があり「なぜ、そのメッセージなのか?」研修やディスカッションの会を設けて、従業員の行動指針にまで落とし込みましょう

ステップ⑤ 効果測定

最後に、実施したCCMが効果を上げているかどうかを定期的に測定し、必要に応じて改善を行います。効果測定は売上では測りにくいものがあるので、調査会社を使って定量調査を実施し、ブランドイメージをヒアリングすることになります。

筆者も経験がありますが、この調査では専門の調査会社に数百万円程度の費用を使って行います。その際、調査のノウハウがなければ大手広告代理店やコンサル会社に依頼することで、適切な調査設計を実施することができます。

この調査項目をKPIとして、毎年、顧客の反応や売上への影響を分析することで、さらなるカスタマーコミュニケーション施策のブラッシュアップを実施します。

ここまで、CCMの導入方法について解説しましたが、最後に注意点を解説します。

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)の3つの注意点

カスタマーコミュニケーションマネジメントにおいては、注意すべき3つのポイントがあるので、一つずつ解説します。

注意点① 顧客データの管理とプライバシー保護

CCMの運用には、大量の顧客データを扱うことが求められます。特にMAツールを利用する場合は、パーソナライズを実施するため大量のデータを必要としますし、CRMは膨大な顧客履歴を記録します。そのため、顧客情報の管理には細心の注意が必要です。

特に、顧客のプライバシー保護は法的にも非常に重要で、GDPR(一般データ保護規則)などの規制を遵守しなければなりません。顧客情報漏えいや不適切なデータの使用は、企業の信頼を大きく損ねるリスクがあり、ブランドイメージが一気に低下します。

このようなデータを扱うためのコンプライアンス遵守とセキュリティ意識、セキュリティ対策が必要となります。

注意点② 社内の意識統一と教育

CCMを成功させるためには、ツールの導入だけでなく社内全体での意識統一が不可欠です。

CCMの成功の可否は、打ち出すメッセージを従業員が深く理解し行動することに尽きます。そのためには、定期的にトップから従業員へのメッセージの徹底や、メッセージに対する従業員同士のディスカッションが求められます。

注意点③ 過剰なパーソナライゼーションに注意

MAツールのパーソナライゼーションは、顧客に対して効果的なアプローチですが、行き過ぎたパーソナライゼーションは逆効果になることがあります。

たとえば、「●●区のマンションに住む方限定!」などの、ユーザーの住所を使ったリターゲティング広告は、かなり不快な思いをするユーザーも多いはずです。

このような過剰に個人情報を用いたメッセージは、顧客に不快感を与える可能性があります。適度なパーソナライゼーションを心掛け、顧客にとって自然で心地良いコミュニケーションを目指すことが重要です。

まとめ

カスタマーコミュニケーションマネジメント(CCM)は、現代の激しい競争環境において、企業が顧客との信頼関係を築き、ブランドの差別化を図るための重要な戦略です。特に、商品のコモディティ化が進み、価格競争が激化する中で、単なる製品やサービスの提供だけでは他社との差別化が難しくなっています。

このような状況で、企業が顧客に強く印象を残し、選ばれるブランドとなるためには、すべてのチャネルで統一されたメッセージを発信することが求められます。

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表。 株式会社インターファクトリーのWebマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」では、ECサイトの初心者向けに特に集客方法について解説。