生成AIは「SEO」を終わらせるのか?

2022年11月に公開された生成AI「ChatGPT」は世間に大きなインパクトを与えました。特にSEO業界では「SEOは終わるのか?」と予想されましたが、ChatGPTの出現から2年たった今も、SEOはインターネットマーケティングにおいて大きなアクセス流入元の一つであり続けています。

しかし、AppleがChatGPT開発元のOpenAIとの提携を発表したことで、Googleを利用する人が激減し「SEO自体がなくなってしまうのではないか?」という懸念が再び生じています。

この記事では、forUSERS株式会社でSEOコンサルタントをしている筆者が、生成AI時代の今後のSEOについて詳しく解説します。

2024年時点でのGoogle検索数は「1日あたり85億回」と圧倒的

2022年11月以降、ChatGPTの利用が世界中で爆発的に広まりました。純粋に比較できるデータは存在していないためざっくりとしたものになりますが、現時点のChatGPTとGoogleの利用者数の最新データを比較してみました。

◆GoogleとChatGPTの比較

サービス利用数や利用者数の目安
Google 1日あたりの検索数85億回(2024年1月時点)
ChatGPT 1億8,050万アカウント数(2024年4月時点)

出典:How Many People Use Google? Statistics & Facts (2024)Exclusive: ChatGPT traffic slips again for third month in a row

上記のデータでは、利用率や利用者数を比較できないものの、2024年時点ではGoogleの検索数が圧倒的であることが分かります。つまりこのデータだけを見ても、SEOは依然として有効なトラフィック獲得手段であることが分かります。

それに対して、ChatGPTのアカウント数は世界で1億8,050万人であり、そこまで普及が進んでいるわけではありません。筆者は、IT業界で若い方からベテランの方までさまざまな方と会いますが、ChatGPTのような生成AIを日常的に利用している人は、筆者の体感だと5~10人に1人程度です。

AIを最も利用するIT業界でもその程度の利用率に終始しており、Microsoft Officeのように、多くの人が当たり前のように使うプラットフォームにはなっていない印象です。

しかし、筆者は今後、Googleの検索エンジンの利用者は大きく減るのではないかと予想しております。

iPhoneなどのApple製品にChatGPTが搭載!1人に1つのAIが提供される時代に。これによりSEO流入は激減すると予想

2024年6月13日に「AppleからChatGPTとの提携」のニュースが発表されました。

参考:Bloomberg「アップル、ChatGPT提携で金銭払わず-iPhone搭載自体が『価値』か」(2024年6月13日掲載)

上記の記事によると、以下のApple主力製品にChatGPTが搭載されるとのことです。

◆ChatGPTと連携される予定の商品

・iPhone
・iPad
・Mac

これにより、iPhoneの音声アシスタントのSiriなどにChatGPTが実装されます。これは、SF映画のようにAIが自然な会話で人間の日常生活をサポートしてくれる世界への第一歩となります。例えば、以下のようなことが世界中で当たり前になります。

◆iPhoneとChatGPTが連携すると質問に瞬時に回答してくれる

「今日のスケジュールを教えて!」
「●●さんからメールがきたら参加するって返事しておいて!」
「週末に京都旅行に行くから、なるべく費用が安くて面白いルートを考えて?」
「■■ショッピングモールは今日は何時まで営業しているの?」
「暇だから古代ローマの面白い逸話でも話してくれる?」

これらが実現することで、Googleで1日あたり数十億回も利用されている、以下のような調べものに関して検索する人は激減することが予想されます

◆iPhoneにChatGPTが実装されることで激減することが予想される検索内容

・「○○という言葉の意味は?」のような検索
・「近くに花屋はある?」のような検索
・ニュース関連の検索
・人の名前、会社名、団体名のような検索

今後はiPhoneに話しかけたり、iPhone上の検索窓にキーワードを入れるだけで、生成AIが回答してくれるようになります。つまり、ユーザーはGoogle ChromeやSafariなどのブラウザにアクセスする必要がなくなります。

Appleはこの提携によりiPhoneの商品価値を高めて、競合のAndroidに対して大きく差別化を図ることができます。競合のAndroidはGoogleが提供するOSであるため、もちろんAndroidにも生成AIを実装するはずですが、Androidに便利な生成AIを実装すると、Google検索の利用者が減るというイノベーションのジレンマに陥ることが懸念されます。

そして、SEOが激減すると予想される理由はもう一つあります。それが「GoogleOverview」です。

GoogleのAIが検索結果に答えてくれる「GoogleOverview」。しかし、SEOへの影響は少ないと考える3つの理由

GoogleOverviewは、以前はSGE(Search Generative Experience)と呼ばれた、以下のようなGoogle検索結果上部に出現する生成AIのことです。

◆SGE(現:GoogleOverview)の画面

SGEの画面

日本でのローンチのタイミングは未定ですが、筆者はベータ版に参加しており、2023年末よりすでにSGE(現:GoogleOverview)を利用しております。上記のように、Google検索結果の上部に出現するために、SEOへの影響を業界では懸念されておりました。

筆者が半年以上利用した印象ですが、SGEがGoogleOverviweとして日本で正式ローンチされても、SEOへの影響は微小なものになると考えます。その理由は以下の3つです。

理由① 利用はしたが従来の検索結果もクリックすることが多かった

筆者のGoogleアカウントで利用するPCのGoogle検索にはSGEが常時実装されており、今までユーザーとしてSGEを利用しましたが、SGEが生成する回答と並行して、従来の検索結果も利用していたため、SGEが登場したからといってGoogle検索の利用は減りませんでした。

理由② 満足する回答ばかりではなく、画面も小さい

多くのSGEによる生成AIの回答を見てきましたが、筆者の所感にはなりますが、満足する回答ばかりではなかったと感じています。また、SGEは開発中のものであり、以下のように画面が見にくいため、結局いつもの検索結果を見たことが多かった印象です。

◆SGEの画像表示は小さくて見にくい(PCでの表示)

SGEの画像表示は小さい

もちろん、これからリリースされるGoogleOverviweはUIも考慮されていると思いますが、UIが使いやすくなればなるほど、従来の広告枠や検索結果は見にくくなり、Googleが自分で自分の首を絞める開発になってしまうので、どこまでUIを突き詰めて開発できるかが難しいところです。

理由③ 過去に「強調スニペット」が実装されたが検索利用は減っていないはず

SGEは最近のものですが、実はSGEと非常によく似た機能がGoogle検索結果に提供されており、今も実装されております。それが「強調スニペット」です。

◆強調スニペットの画面

強調スニペット

強調スニペットは2020年6月から実装された機能であり、検索結果上部に表示されるという意味では、現在のSGEと似たような機能です。強調スニペットは検索結果をクリックしなくても回答が得られるため、SEOに悪影響があるのではないか、とSEO業界では話題になりましたが、その後、強調スニペットがSEOに悪影響を及ぼしているという意見は聞いたことがありません

そのため、強調スニペットと似たような表示がされるSGEが、GoogleOverviewとして国内で正式リリースしても大きな影響はないのではないか、と筆者は考えます。

SEOは生成AIによって完全になくなるのか?筆者は生成AIの時代でも現在の30~50%の流入は残ると考える

筆者はSEOコンサルであるため、クライアントから以下のような質問が多く寄せられます。

「SEOは今後、なくなるのですか?」
「SEOはAIに代替されるのですか?」

これらに対する筆者の回答は以下の通りです。

今のGoogle検索からのSEOによる流入を100%とすると、30~50%は生成AI時代にもSEOによる流入が発生するでしょう。

このように答える根拠は、以下の3つです。

◆生成AI時代が来てもSEOがなくならない3つの根拠

根拠① 調べものキーワードではなく、「ECサイト構築」であったり「CVR改善」、「営業のコツ」などの答えが一つではない分野の検索は残る

根拠② Googleの生成AI「SGE」は半年利用したが、あまり利用しなかった

根拠③ AIの回答ではなく、人の感想やプロの意見を聞きたいケースが多々ある

確かに、「料理のレシピ」や「地名」「人名」「単語」などの調べもの需要は生成AIがカバーしますが、回答が一つでないものや人々の生の意見を聞くには、生成AIよりも従来の検索結果の方が向いております。そのため、今後もSEOは完全にはなくならないと思われます。

問題は「どれくらい残るか?」という点ですが、筆者の主観ですが、今の利用率を100%とすると、生成AI時代においても30~50%は残るのではないかと考えております。

その根拠とはなりませんが、2000年代に大流行したFacebookは、Instagram(InstagramはFacebookと運営が同じMetaではありますが)、TiktokやX、YouTubeなどの競合SNSが流行っている中、それでも2024年の利用率は30%※を超えます。

※参考:株式会社ホットリンク「2024年|日本・世界のSNSの利用者数ランキングまとめ!SNS別のマーケティング成功事例も解説」(2024年2月14日掲載)

そのため、SEOは今後も残り続けると筆者は予想するのです。

生成AI時代のSEOとは?生き残るためのSEOの3つのポイント

それでは、生成AI時代が訪れてもなくならないSEOとはどのようなものでしょうか。SEOコンサルである筆者の経験を踏まえ、3つのポイントを解説します。

ポイント① 実体験や取材をして記事を書く

AIにできないことは「実際に体験すること」です。そのためSEO記事を書くにあたっては、他のサイトを参考にするのではなく、まずは体験や取材を実施して、使ったからこそ分かる実体験を書きましょう。具体的には、以下の筆者の趣味のブログをご覧ください。

参考:東京シュノーケリングブログ

このブログでは、実際に体験したからこそ書ける体験談や筆者自身が撮影した写真が多数掲載されております。このように、AI時代のSEOにおいては体験談が非常に重要となります。

ポイント② プロフィールを実名にする

SEO目的のブログ記事が全盛の今では、無記名やペンネームが多く利用されています。しかし今後、ただの調べものはAIに完全に置き換わります。そのような時代においても検索で生き残るためには、プロフィールを公開し専門性をアピールする必要があります。

また、プロフィールを設置するなら、ブログの文章でも「筆者の意見」をふんだんに主張して、人間が書いている記事だということを鮮明にし、主張と根拠をしっかり記事に入れ込みます

ポイント③ ファンをつくる

生成AI時代になると記事の量が一気に増えます。なぜなら、SEO記事は一瞬で生成できるようになるからです。しかし、そのような記事に愛着を持つユーザーは多くないはずです。今後は原点回帰で、体験談が豊富で、人間が明らかに書いている記事こそがSEOで生き残る方法です。

そのようなブログには、定期的にファンが訪れるようになります。そのため、ブログ運営においては、以下の3つが重要となります。

◆ブログでファンを作るためのアプローチ

① ブログと並行してSNSを運営する
② コメント欄でファンと交流する
③ リアルでもブログを書いていることをアピールする

筆者の運営する東京シュノーケリングブログは、夏には10万PVを超えるアクセス数があり、多数のコメントで埋まっております。また、海に行くとファンから声をかけてもらうこともしばしばあり、このような取り組みがSEOでも重要となってくるはずです。

ファンがいるようなメディアは明確に差別化されているため、SEOでも強力なメディアとなります。以下は、東京シュノーケリングブログのSEO順位ですが、関東のシュノーケリングにおいては上位を独占しており、完全にジャンル認知されていることが分かります。

◆東京シュノーケリングブログのSEO順位

SEO順位

出典:検索順位チェックツールGRCで順位チェックをした結果

生成AI時代にこそ検索結果が面白くなる!SEOの時代がやってくる

生成AIによりスマートフォンですぐに調べものができ、複雑な作業もAIが一瞬で代行してくれる世の中が訪れようとしています。しかし、SEOを生業としている筆者は、生成AI時代の到来をそれほど脅威と考えてはおりません。この記事でも解説したとおり、検索行動は一定数残ります。

また、検索で簡単にアクセス数を集めることができないため、今までSEO対策のために記事を書いていた企業がSEOへの関心を失い、検索結果が健全化されるのではないかとも筆者は考えています。そうなると、体験談をもとにした人間の書いた記事がSEO上位を占めて、本当に面白い時代になるのではないかと筆者は期待しております。

ただ、先のことは誰にも分かりません。まずは目の前のことにベストを尽くした結果に先があると思いますので、Googleのアルゴリズムではなく、ユーザーに対して真摯な記事を書くことに注力しましょう。

筆者は、下記の「ebisu growth」EC戦略PM支援サービスでSEOコンサルも担当しているので、生成AI時代にも負けないSEO対策をお考えの事業者の方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

ebisu growth「EC戦略PM支援サービス」

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表。 株式会社インターファクトリーのWebマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」では、ECサイトの初心者向けに特に集客方法について解説。