2023年の家電業界のEC市場規模は2兆6,838億円です。物販分野においては「食品」「アパレル」に次ぐ大きな市場であり、EC化率は42.88%(2023年)と高い水準を持つ成長市場です。
家電業界のこのような背景において、量販店各社はオムニチャネルやOMO施策をはじめとしたデジタル戦略を積極的に推進して競合差別化を図っており、家電EC市場の成長につながっています。
本日は、forUSERS株式会社でマーケティングを行っている筆者が、家電EC市場について詳しく解説します。
成長する家電のEC市場規模
EC市場は成長傾向にあります。以下は家電EC市場の市場規模とEC化率の推移のグラフになります。
◆家電EC市場規模とEC化率の推移
出典:経済産業省「電子商取引実態調査」、「令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」より筆者作成
これを見て分かるとおり、家電EC市場については堅調に推移しており、特にコロナ禍に突入した2020年の市場規模とEC化率は、前年からの拡大が顕著に現れております。
コロナ禍以降は、市場規模、EC化率ともに引き続き拡大傾向に推移し、2023年にはEC化率が上昇し42.88%となりました。
また、以下は物販分野における分類別EC市場の比較表になります。
◆物販系分野のBtoC-EC市場規模
出典:経済産業省「電子商取引実態調査」、「令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」より筆者が一部加工
家電EC市場は、「食品、飲料、酒類」に次ぐ大きな市場です。EC化率においては、2023年は42.88%と、物販分野全体のEC化率である9.38%を大きく上回っており、他市場と比較してもEC利用が進んでいる市場と言えます。
このように、家電業界のEC市場は拡大傾向にあり、成長が続いております。
家電EC市場の5つの成長要因
家電EC市場が、このように成長著しい理由はいくつかありますが、主に以下の5点が考えられます。
◆家電EC市場の5つの成長要因
要因② オムニチャネルの推進
要因③ レビューサイトの充実
要因④ 配送・設置サービスの充実
要因⑤ コロナ禍によるEC利用の促進
これらについて、詳しく解説していきます。
要因① 型番買いができる
家電製品は、型番が一緒であれば、どのECサイトであっても品質が変わるといったことはないため、ECサイトでの購入がしやすいことが特徴です。「どのECサイトでもモノが一緒で品質が変わらない」という点で同様の商材を扱う書籍・映像・音楽ソフト分野も、EC化率が53.45%と極めて高い点からも、この要因がEC利用率に大きく影響していると考えることができます。
価格の比較もしやすく、ポイント還元率やアフターサービスなど、競合における比較ポイントも絞られるので、ユーザーにとって検討しやすいといった点から、家電のEC利用が進んでいる要因の一つと考えられます。
要因② オムニチャネルの推進
昨今、物販分野の多くの業界において、リアル店舗とECサイトなどのオンラインをシームレスにつなぐオムニチャネル戦略やOMO戦略が強化されております。
家電業界においても導入が進んでおり、ECサイトで購入した商品の店舗受け取り、店舗とECの会員情報の一元化や在庫管理の共有化など、各社でさまざまな施策を実施しております。
例えば、特にDX推進に注力しているヤマダデンキでは、リアルタイムに価格を変更したり、値札から直接アプリで在庫やレビューの確認、さらに競合店との価格比較ができる「電子棚札」を導入しております。
◆ヤマダデンキの電子棚札(筆者撮影)
また、ビックカメラも同様に電子棚の活用に加え、店頭の実演販売をリアルタイム配信して、オンラインでも受注できるライブコマース施策を実施するなど、オムニチャネル戦略に積極的に取り組んでおります。
オンラインとオフラインをシームレスにつなぐことで、ユーザーの購入体験の充実により利便性が向上し、EC利用が進んだ要因となっております。
要因③ レビューサイトの充実
家電製品は、比較サイトやレビュー・口コミコンテンツが充実している商材です。その理由の一つには、家電自体が個人の使用感に差が出にくいため、購入者もレビューしやすく、検討する側も受け入れやすいことが挙げられるでしょう。
下記記事においても、口コミ情報を参考にして購入する商品で最も多いのが家電製品という調査結果が出ております。
口コミ情報利用者に、口コミ情報を参考にして購入する商品・利用するサービスを聞いたところ、「家電製品、AV機器、カメラ」(44.4%)が最も多く、次いで「パソコンなどコンピュータ関連機器」「宿泊、旅行」が各3割で続く。
購入者のレビューや口コミは、ECサイトで購入を決断する決め手にもなりやすく、レビューコンテンツが充実していることは、EC利用促進に大きく貢献しているはずです。
要因④ 配送・設置サービスの充実
物販において、ECサイトでも扱っている商品を店舗で購入する理由の一つには、「配送がないためすぐに手に入る」という点があります。そのため、ユーザーは時間や手間をかけて店舗に足を運びます。
その点、特に大型の家電製品は、店舗で購入しても配送を手配することになるため、ユーザーの手元に届くのは、ECで購入した場合とさほど変わりません。
その結果、店舗購入と比較して、ECサイトの利便性が相対的に高くなります。
要因⑤ コロナ禍によるEC利用の促進
家電業界に限ったことではありませんが、昨今のコロナ禍の外出自粛の影響により、多くの物販分野においてECの需要が高まり、これまでECサービスを利用してこなかった層もECにシフトしてきたことで、利用が大きく進みました。
また、外出自粛による在宅時間をより充実させるために、AV機器やPCなどの需要も高まったことで、家電EC市場の拡大につながったと考えられます。
参考:コロナ禍の外出自粛で高額のオーディオ、ビジュアル製品が好調 <販売店の声・売れ筋ランキング12月>(PHILEWEB)
顧客ニーズの多様化により新しいECサービスも増えている
昨今、顧客ニーズの多様化にともない、家電を取り巻く新しいECサービスも増えてきております。
家電のサブスクサービス
特に家電のサブスクリプションレンタルサービスは、大手パナソニックをはじめ多くの家電事業者が展開しております。
個人ユーザー向けのレンタルが一般的ですが、パナソニックの家電サブスクサービス「noiful」では、賃貸オーナーや管理会社を対象に、家電一式を賃貸住宅向けに月額料金で貸し出すなど、販売形態も多様化しております。
◆noiful ROOMのサービスモデル
引用(画像):賃貸住宅向けサブスクリプションサービス「noiful(ノイフル)」を開始(パナソニック ホールディングス株式会社)
また、EC専門の家電販売の老舗「ECカレント」では、ECサイト内で「空気清浄機フィルターストア」を開設しており、自分の空気清浄機の型番から検索すると、該当するフィルターが購入できるほか、商品が検索されない場合は、運営側がユーザーに代わって調べてくれます。
また、同サイト上では、小型家電の宅配便リサイクルサービスも展開しており、不要になった家電製品を段ボールに詰めておくだけで、希望日時に回収してくれます。
このように、これまで販売がメインだったECサービスで、「アフターサービス」も展開されるようになり、より家電ECの利便性が高まってきております。
家電のリユース・リサイクル
家電のリユースやリサイクル市場も活発化してきております。
大手家電EC専門店のエクスプライスは、2021年にリネットジャパンリサイクルと協業して、小型家電の宅配・リサイクルサービスを開始しました。また、パソコン製品を中心に取り扱っているソフマップも、同じく2021年にじゃんぱらを買収し、PC買取を強化しております。
さらにヤマダデンキも、2022年に家電リユース工場を新設して、主に白物家電のリユース販売に注力しており、リユース家電の年間生産台数を、2024年度中に現状の6割増となる30万台まで増やすと計画しています。
このように家電の中古品のニーズの高まりの背景には、近年続く物価高騰に加えて、半導体不足からくる新品家電の供給不足があるとされています。
SDGsの広まりとともに、ニーズ高まる家電リユース・リサイクル事業は、今後も家電市場拡大に大きく影響していくと考えられます。
参考:<家電リユース・リサイクルEC> 協業、買収で大手が取り組み強化/ヤマダは白物家電にも対応(日流ウェブ)、ヤマダ、家電再生で新工場 生産6割増の30万台に(日本経済新聞)
家電業界の課題「ショールーミング」への対策
家電業界では、店舗で実際の商品を確認してもその場では購入せず、インターネット通販などで同じ商品を購入する「ショールーミング」が以前から問題視されており、その対策は大きな課題でした。なぜなら、Amazonなどの大手モールも含む競合を相手に価格競争に陥ってしまうことになるからです。
これに対し、かつてヤマダ電機は「ショールーミング対策は結局『価格』」と断じ、徹底したローコスト戦略で対応しましたが、仕入れ値を下回るとも言われるAmazonの低価格にはコスト削減での対抗も限界があり、やはり単純な価格競争はリスクが大きい面があると言えるでしょう。
ヨドバシカメラでは、ショールーミングというユーザー行動を逆手にとって、あえてショールーミングを推奨することで、結果的に顧客満足度において大手モールを上回るに至りました。
ヨドバシカメラは、2012年より商品の値札のすべてにQRコードを掲載しました。これをスマートフォンで読み取ることで自社ECサイトに直接アクセスしてもらい、そこでレビューやランキングも確認しながら商品を購入できるようにしております。この仕組みによりユーザーが他のサイトに流れていくことを防ぐことに成功したのです。
少し古い事例ではありますが、今なおショールーミングによる機会損失が問題視される中で、OMO(Online Merges with Offline)を活用して課題解決に導いた好事例と言えます。
スマート家電によりメーカーECも活性化へ
スマートフォンやタブレット端末の普及により、「スマート家電」が普及しつつあります。スマート家電は、音声やスマホアプリなどを利用して動作を制御しますが、IoTやAI技術の進展により、さまざまな製品で導入が進んでおります。
実際に筆者も、パナソニックのスマート炊飯器を購入したことがあります。専用の「キッチンポケットアプリ」から各種設定や動作制御を行いますが、このスマホアプリには炊飯器以外にも、電子レンジやIHクッキングヒーターなどの調理家電が登録でき、それぞれをそのアプリだけで制御できるようになっております。
◆パナソニックの調理家電専用アプリ「キッチンポケットアプリ」
参考:キッチンポケットアプリ
さらに、アプリからメーカーの販売ページに直接アクセスして購入できるようになっております。今まで、家電製品を購入する際は、家電量販店のECサイトやショッピングモールサイトばかりで、メーカーのECサイトを見たことがないという方は意外に多いのではないでしょうか。筆者もまさしくそうで、現在、最新の電子レンジの購入をメーカーのECサイトで検討しております。
このように、スマート家電の登場により、スマホを介してメーカーのECサイトもエンドユーザーの目に触れる機会が増えており、今後活性化するきっかけにもなるのではないかと筆者は考えます。
業界の飽和状態を脱するカギはデジタル戦略にあり
家電業界のEC市場は拡大傾向にあり、今後も堅調に推移していくと予測されております。
そして、業界全体の飽和状態を脱するためには、EC需要の高まりに応じたオムニチャネルやOMOといったデジタル戦略を積極的に推進していくことが鍵になると筆者は考えます。
差別化しづらい家電市場においては、オンラインとオフラインの双方でユーザーとの接点を作っていき、上質な購入体験を提供することで、競合差別化を図っていくことが重要です。
EC構築システムの「ebisumart(エビスマート)」を提供している株式会社インターファクトリーでは、EC支援サービス「ebisu growth」にて、EC事業の成功を支援しています。ネットショップについてコンサルを受けたい方は、ぜひ以下から資料をダウンロードしてご検討ください。