ゼロモーメント・オブ・トゥルース(ZMOT:ジーモット)とは、消費者が商品やサービスを購入する前に、自らインターネットで情報を調べて意思決定に至るプロセスであり、端的に言うとユーザーの多くは、購入前にすでに事前の情報収集によって商品を決める行動のことを指します。
ゼロモーメント・オブ・トゥルースはGoogleが提唱した概念で、店舗で商品を見て購入を決める「ファーストモーメント・オブ・トゥルース」よりも前に訪れる「ゼロの瞬間」として位置付けられています。現代の購買行動では、レビューサイトやSNS、検索結果などを通じて事前に情報収集することが当たり前になっており、このタイミングでの印象や情報の質が、商品購入の可否を大きく左右します。
そのため、企業の店舗やECサイトではこの段階を意識した広告戦略や情報配信を行うことが、マーケティング戦略上、非常に重要となるのです。
この記事では、forUSERS株式会社でマーケティングを担当している筆者が、ゼロモーメント・オブ・トゥルース(ZMOT)について詳しく解説します。
ゼロモーメント・オブ・トゥルースをチャネルごとに解説
まずは、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを作る、テレビCMや、SNS、SEOなどの各チャネルごとに、筆者の経験を踏まえて以下の一覧表にまとめてみました。
◆ゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すチャネル一覧
チャネル | ZMOTへの影響 | ターゲット層 | 商材の例 | ユーザー行動・特徴 |
---|---|---|---|---|
①テレビCM | 主にキッカケづくり | 30代以上 | 自動車、飲料、通信キャリア、大手保険、金融 | 認知のキッカケになり、その後の検索・動画視聴へとZMOTを誘発する。直接ではないがZMOTを促す強力な起点となる。 |
②X(旧Twitter) | 中程度 | 20〜40代 | ガジェット、書籍、サブカル、時事性のある商材 | 商品に対するリアルな口コミや世間の反応を確認する場。バズや炎上で認知が拡がることもあり、検索や動画視聴のキッカケになる。情報の流動性が高い。 |
③TikTok | 主にキッカケづくり | 10〜20代・女性多め | ファッション、コスメ、雑貨、飲料、プチプラ商品 | エンタメ感覚で商品を知り、直感的に「欲しい」と思う。動画なので、商品の魅力が伝わりやすい。バズれば短期間で大きなZMOTを促す効果がある。 |
④Instagram | 中〜大 | 20〜30代・女性多め | ファッション、インテリア、コスメ、カフェ、旅行系 | 投稿やストーリーズによって、インフルエンサーや身近な人が紹介する商品やサービスは購買意欲に影響する。ハッシュタグ検索もされる。 |
⑤YouTube | 大きい | 10〜40代 | 全ジャンル | レビューやHowTo動画で商品理解を深める。リアルな体験・使用感が伝わりやすく、購買意欲に大きく影響する。 |
⑥SEO(検索結果) | 大きい | 全年代 | 全ジャンル | さまざまなチャネルを経て、商品名や課題で検索し、比較・検討を行うため、最も購買に直結しやすいチャネル。ECサイトのレビュー欄もSEOに該当する。 |
⑦LLMO(生成AI検索) | 小さい(今後大きくなる可能性大) | 20〜50代・リテラシー高め | 全ジャンル | ChatGPTなどの生成AIを使って会話形式で調べ、要約・推薦情報から判断するが、まだユーザーのAIに対する信頼は高くはない印象。しかし、今後はSEOと同様に購買に強く影響すると予想される。 |
表は筆者が独自に作成、上記の表を作る上で参考にした資料の一覧
・総務省『通信利用動向調査(令和4年版)
・TikTok for Business「媒体資料ダウンロード」
・Meta広告とは
・Google AI で成果を最大化する YouTube 広告事例
・2023年 日本の広告費|媒体別広告費
・X広告媒体資料2024年4-6月期 – X Business
たとえば、テレビCMは直接的にゼロモーメント・オブ・トゥルースを形成するチャネルではないものの、幅広い年代への認知喚起を通じて、その後のSEO検索やYouTube視聴、Xでの口コミ確認といった情報収集行動を引き出す「起点」として大きく機能します。一方、TikTokやInstagramのようなSNSは、若年層を中心に視覚的・感覚的に訴求できる商材との相性が良く、偶発的に商品に出会い、そのまま購買行動につながるケースも多いのです。
さらに、YouTubeやSEOはユーザーの「もっと知りたい」という意欲を深堀りする局面に強く、特に比較検討フェーズにおいては、大きな影響力を持ちます。このように、各チャネルが持つ特性やリーチする層の違いを理解した上でコンテンツ戦略を設計し、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを促してみましょう。それでは、各チャネルについて一つずつ解説します。
7つのチャネルごとに「ゼロモーメント・オブ・トゥルース」を解説
それでは、各チャネルごとに、自社商品やサービスへゼロモーメント・オブ・トゥルースを促す方法を解説します。
チャネル① テレビCM
テレビCMは、ゼロモーメント・オブ・トゥルースの「直接的な場」ではありませんが、その入り口をつくる重要なチャネルです。幅広い視聴者層にリーチできるため、新商品やサービスの存在を知ってもらうキッカケとして強い効果を発揮します。
例えば、CMを見て「この商品は何だろう?」と気になった視聴者が、その直後にスマートフォンで検索したり、SNSで話題になっているかを確認したりする行動は、まさにゼロモーメント・オブ・トゥルースの起点です。
このような流れを生むためには、テレビCMの中で検索ワードを明示したり、WebやSNSと連動する導線を設計したりすることが重要なマーケティング施策となります。CM単体で完結させるのではなく、視聴後に「調べたくなる」「深掘りしたくなる」ようなストーリーテリングやキャッチコピーの設計がマーケターには求められるのです。
チャネル② X(旧Twitter)
Xは、ユーザーが商品やサービスについて「他の人の反応」や「リアルな口コミ」を確認するためのチャネルとして、ゼロモーメント・オブ・トゥルースが生まれやすいメディアです。何かが話題になっているとき、人々は自然とXでその評判を探します。商品名やブランド名で検索した際に、多くのポジティブな声が並んでいれば、それだけで信頼感が醸成され、購買意欲に結び付くこともあります。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)として「ハッシュタグキャンペーン」などが利用されますが、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すためには、自然なUGCを増やす方が向いています。
例えば、優れた商品やサービスである場合、意図せずともX上でポジティブな口コミが拡散することがあるため、そのような商品やサービスはゼロモーメント・オブ・トゥルースが生じやすくなります。つまり、XのようなSNSでは、優れた商品やサービスを作ること自体がゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すことになるのです。
チャネル③ TikTok
TikTokは、短時間で直感的な印象を残せることから、ゼロモーメント・オブ・トゥルースのキッカケを生じさせやすいチャネルです。ユーザーは意図的に情報収集をしているわけではなく、タイムラインに流れてきた動画の中で興味を引かれた商品に対して、思わず「気になる」「調べたい」と感じることが特徴です。
テレビCMと同様に、気になる商品と出会うことで直接的にゼロモーメント・オブ・トゥルースを形成するのではなく、その後、他のチャネルで情報検索したり、YouTubeで調べるための「キッカケ」を提供します。
このような流れを生み出すには、広告ではなくエンタメの一部として溶け込むようなコンテンツ作成が求められます。特に、商品を実際に使っているシーンやTikTokでなじみのある「あるあるネタ」と組み合わせたフォーマット動画が効果的です。さらに、コメント欄でのリアクションやシェアが広がることで、検索や他チャネルでの情報検索行動を生じさせやすくなります。
チャネル④ Instagram
Instagramは、世界観や雰囲気を伝えるのに適したチャネルで、ユーザーはブランドの投稿やストーリーズ、リールを通じて、「この商品、良いかも!」と直感的な好意を抱きます。そこからハッシュタグ検索や公式アカウントのプロフィールリンクをたどる情報検索行動が、ゼロモーメント・オブ・トゥルースそのものとなります。
この起点をつくるには、ただ商品を紹介するのではなく、ライフスタイルの中で商品がどう使われているか、どんなシーンに合うのかをイメージさせるビジュアル表現が重要です。また、インフルエンサーとの連携や、ユーザーによる自然なタグ付け投稿が広がることで、幅広いユーザーに商品が知れわたるようになります。
チャネル⑤ YouTube
YouTubeは、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを促す強力なチャネルです。検索で商品を知ったユーザーが、さらに詳しく知るためにレビュー動画や比較動画、使い方の解説動画を視聴することで、購買意欲が一気に高まります。
筆者の妻も、ダイエット商品の購入を検討する際、YouTubeでのダイエット商品のレビュー動画を複数回みることで、購入するにいたりました。
このように、リアルな使用シーンや、第三者による信頼性の高いレビューコンテンツがゼロモーメント・オブ・トゥルースには有効です。自社で作る公式動画だけでなく、インフルエンサーや専門家による「忖度のない評価」が、ユーザーの背中を押す材料になります。視聴後に検索や購入ページに移動してもらう導線設計もしっかり行いましょう。
チャネル⑥ SEO(検索結果)
SEOは、まさにゼロモーメント・オブ・トゥルースの中心を担うチャネルであり、ユーザーが自ら情報を探しに来る能動的な場と言えます。商品名や悩み・課題をキーワードにして検索した結果、確信を得られる情報に出会えたかどうかが、その後の意思決定に大きな影響を与えます。
SEOでゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すためには、単なるスペック紹介ではなく、ユーザーの疑問に答えるコンテンツ、比較検討に役立つ情報、そして実際に使った人の声など、信頼と納得を得られるコンテンツ配信が欠かせません。特に高価格帯の商材やBtoB分野では、SEO検索が意思決定の主戦場となるため、SEO施策の優先順位は極めて高いと言えます。
チャネル⑦ LLMO(生成AI検索)
近年急速に存在感を増しているのが、ChatGPTやAI Overview、Claude、Perplexityなどの生成AIを使った検索行動です。従来の検索とは異なり、ユーザーは「おすすめ〇〇を教えて」「△△との違いを教えて」といった会話形式で情報を収集し、その場で回答を得て意思決定を進めていきます。これこそ、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを促す新しい形と言えるでしょう。
LLMOでゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すには、従来のSEOだけでなく「AIに引用されやすいコンテンツ構造」が必要です。たとえば、信頼性のある情報源(公式ページ・比較記事・専門家のレビュー)として認識されるよう、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を意識したコンテンツ設計が求められます。
LLMOはまだ新しい概念ですが、今後のゼロモーメント・オブ・トゥルース戦略においても重要な位置を占めていくことは間違いないと筆者は考えます。
「大企業」におすすめのゼロモーメント・オブ・トゥルースは、テレビCMやSNS、SEOなど複数チャネルで施策を実施すること
予算のある大企業では、複数のチャネルを使って一気にゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すことができます。例えば、テレビCMやX広告を使って話題を作りつつ、あわせてYouTubeやSEOコンテンツを準備するなど、複数のチャネルを利用して、多くのユーザーにゼロモーメント・オブ・トゥルースを促すことができます。
例えば、2019年に一気にQRコード決済の主流となった「PayPay」は、テレビCMやSNS、Webコンテンツなどあらゆるチャネルにキャンペーンの予算を大量投下したことで、日本でQRコード決済と言えば、「PayPay」が第一想起されるようになりました。
参考:ログミーBusiness「世界中から詐欺師も集まり10日で終了した『100億円キャンペーン』 累損4,000億円を投下して急成長したPayPayの成功戦略」(2024年8月27日)
このように、大企業は予算やリソースに余裕があるからこそ、単一チャネルに頼らず、ユーザーの検索・検討・意思決定のすべての段階をつなぐ導線を各チャネルで整備することが求められます。テレビCMなども、SNSでのバズを意識したり、視聴者に検索を促すように複数のチャネルを意識して設計する必要があります。
「中小企業」におすすめのゼロモーメント・オブ・トゥルース
中小企業の場合、大企業のようにテレビCMやSNS広告に多額の予算を投じることはできません。しかし、SEO対策を中心としたオウンドメディア(ブログ運用)による情報発信であれば、中小企業でもゼロモーメント・オブ・トゥルースによって自社商品が選ばれる環境を作ることができます。
特定の悩みに対する解決策や、商品の選び方、活用事例などを丁寧にブログで発信することで、検索するユーザーに認知させることができます。さらに現場目線や専門性の高い情報を出せるのは中小企業の強みでもあります。
無理に大規模な広告投資をするのではなく、ブログによるSEO対策で、ユーザーに見つけてもらう土台となるコンテンツを作ることが、中小企業にとって予算にあった成功可能性の高いアプローチとなります。
ゼロモーメント・オブ・トゥルースの2つの注意点
ゼロモーメント・オブ・トゥルースは、現代の購買行動を理解する上で非常に有効な考え方ですが、実践においては注意すべき点もいくつかありますので、一つずつ解説します。
注意点① 1つのチャネルだけで完結すると考えてしまうこと
まず、多くのマーケターが勘違いするのは、ゼロモーメント・オブ・トゥルースを「1つのチャネルで完結する行動」として捉えてしまうことです。
実際には、ユーザーは複数のチャネルをまたぎながら情報を集め、無意識のうちに複数のチャネルを経由しています。つまり、テレビCMやキャンペーン広告だけを強化して認知を高めても、SEOやYouTubeなど、ユーザーが商品購入するための確信を得るための情報が情報検索の際に出てこなければ、全体としての効果は限定的になってしまいます。特にユーザーによる情報検索と、受け口となるSEOや動画コンテンツの設置を欠かさないようにしましょう。
また、中小企業がゼロモーメント・オブ・トゥルースのためにSEO対策に力を入れているなら、企業の信頼性も高めるためにあわせてSNSで発信することをおすすめします。認知度の低い企業の場合、「この企業は聞いたことがないな?」と思うユーザーもいるため、SNSの活動を通じてある程度信頼に結び付けることができるからです。
注意点② 自社に都合の良い情報ばかりを露出する
例えば、ゼロモーメント・オブ・トゥルースにおいて、ユーザーが情報検索の際に自社ECサイトの商品レビュー欄を見たとします。そこで自社に都合の良い情報ばかりが出てくると、「悪い口コミは表示していないのか?」とかえってユーザーに不信感を抱かれる可能性もあります。
レビューや比較コンテンツの中にはネガティブな意見が含まれることもありますが、それを排除するのではなく、ネガティブな意見を正面から受け止めて、次回の商品企画に反映させるなどの姿勢の方がユーザーから支持されるはずです。
例えば、筆者の友人は商品を購入する際、良い口コミは参考にせず、悪い口コミだけを参考にします。なぜなら、悪い口コミを見て「最悪のリスクを許容できるかどうか?」を見極めており、そのように考えるユーザーは実際に多いはずです。
ですから、そういった観点からもレビュー欄から悪い口コミを排除することはせず、良い口コミと悪い口コミの両方からユーザーが判断しやすい状況を作るべきだと筆者は考えます。
まとめ
ゼロモーメント・オブ・トゥルースとは、ユーザーが商品やサービスを知ってから購入に至るまでの間に、ネット上で意思決定するプロセスのことです。
現代の購買行動においては、特にユーザーが自分で調べるプロセスが意思決定を左右します。そのためゼロモーメント・オブ・トゥルースでも、YouTubeやSEO検索は、商品やサービスの購入を決定づけるために重要なチャネルとなります。
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